えんじゅ

時代は変わる

時代は変わる


 ボブ・ディランは今年で70歳になる。

 約8年ぶりの来日公演に行ってきた。一昨年行ったエリック・クラプトンのセットリストは、「もうこれで最後だから」と言わんばかりの往年のヒット曲の連続だったから、もしかしてボブ・ディランもそうかもしれないと、心のどこかで思っていた。
 ところがステージは、昨年出たブルースアルバムとヒット曲のアレンジの連続。これまでもずっとそうだったように、彼の歌はライブの度に全く別の歌に生まれ変わる。オリジナルのメロディで演奏することは、ついに一曲もなかった。
 歌詞を聞き取れないと何の曲を演っているのかさえわからない。初めは歌詞を聞き取ろうと集中していたのだが、それも途中で辞めてしまった。目の前で演奏されている今のボブ・ディランの歌を、何も考えずに楽しもうと思った。
 「時代は変わる」と歌いながら、ボブ・ディランはずっと変化し続けてきた。1966年のロイヤル・アルバート・ホール、アコースティックからエレキに持ち替えたとき、観客から「Judah!(裏切り者)」と呼ばれたエピソードはあまりにも有名だ。今、目の前のボブはギターさえ持たず、キーボードとハーモニカで歌っている。

 学生時代にボブ・ディランのTシャツを作った。白と黒、灰色の3階調でポートレートを刷った。黒の部分はシャツの地を残していて、灰色の部分は白インクのドットで表現しているから、インクは白一色。全ては版代とインク代を倹約するための工夫だった。当時は本当に金がなかった。なけなしの金でボブ・ディランの新譜を買って、拾ってきたCDラジカセでひたすら聴いた。

 ボブ・ディランが歌ったように、僕も社会も時代は変わった。あの頃聴き続けたオリジナル・アルバムを聴くと、今でも美しかった日々ばかりを振り返ってしまう。だから前に進めなくなりそうで、聴くのはいつも少し怖い。
 でもボブ・ディランはいつも、ずっとずっと先に行っている。それがとても嬉しい。
平和を  |  記事の一覧に戻る  |  橋の上に立ち見渡せる長い土手沿いの桜並木は