えんじゅ

味噌を仕込む

味噌を仕込む


 食べるということに関して、わかったつもりで放置せず、ふだん口にしているものをしっかり見つめ直そうと思って、八割方失敗しつついろんなものを手作りしているこの頃。
 そんな折、もう5年も自分で味噌を作っているという友達が、来年食べる分を一緒に作ろうと言って大きな壺を抱えて大磯まで来てくれた。よく晴れた日曜日に、友達に教えてもらいながら、味噌を仕込んだ。
 
 

 材料は大豆と塩きり麹だけ。いたってシンプル。
 大豆を一晩水に漬して寝かせておくと、水を吸って大きく膨らむ。今回は友達が一晩寝かせた大豆を持ってきてくれた。この大豆は、静岡の小川町という町の畑で育てられた、有機栽培のものなのだという。汗を流して大切に作られた有機大豆を、毎年大豆農家まで足を運んで分けてもらっているそうだ。友達がその農家の方との出会いと、彼らの有機栽培への思いを切々と語ってくれて、目頭が熱くなった。
 農家の方と友達の思いに応えるべく、必ずおいしい味噌に仕上げようと気合いが入る。


湯がく:
湯がく

 まずは灰汁を丹念に掬いながら、大豆を湯がく。最近売られている野菜は灰汁があまり出ないように品種改良されているという話も聞いたことがあるが、この大豆からは見たこともないくらいの大量の灰汁が出た。灰汁を取り除く作業に必死で、湯がく過程の写真は撮り忘れた。


煮る:
煮る

 湯がいた大豆を圧力鍋で煮る。ふつうの鍋で煮ると4、5時間かかるところを、圧力鍋で煮るとなんと15分で済む。時間の短縮だけでなく、その分ガスを使わずに済むから良いよね、と友達。ところが、鍋の中で尋常じゃない圧力がかかっているからなのだろうか、何度か天井まで達するとてつもない蒸気が一気に吹き出した。あまりの迫力に唖然とし、我に返って天井を拭く。友達によると、剥がれた大豆の薄皮が圧力を逃がす穴の蓋をしてしまったからだそうだ。最初はたまげたが何度か経験するうちに、雑巾片手にまだ吹き出さないかな、と楽しみになった。


潰す:
潰す

 煮上がった大豆はふっくらとして、表皮が艶やかな色合いになった。誘惑に耐えられずこの時点でひとつまみ、ふたつまみ。旨味が凝縮されていて、とても甘い。潰すのがもったいないくらいの極上の大豆だが、すりこぎで少しずつ潰していく。
 時おり潰し損ねた大豆が、原型をとどめたまま出来上がった味噌から顔を出すんだよ、と友達。それもおもしろい。僕もザラッとした舌触りの味噌が好きなので、あまり潰し過ぎないようにした。


捏ねる:
捏ねる

 いよいよ塩きり麹と混ぜ合わせて手で捏ねる。この手で捏ねる作業がとても楽しい。最近は何でも手を汚さないようについつい道具を使うことが多いが、うどんでもパンでも手捏ねのものはやはりおいしい。空気がきれいに抜けるからだとか機械熱が伝わらないからだというが、物理的な作用に加えて精神的な作用もあるような気がする。
 大豆と麹の塩梅によって、出来上がる味噌の味が変わってくる。麹の歩合を高めるほど甘口に仕上がるのだという。今回は、友達の薦めで一対一の歩合にし、種味噌(去年仕込んだ味噌)を交えて捏ねた。


丸める:
丸める

 捏ね終わると、含まれている空気を抜くために丸めていく。余分な空気が入っているとそこから黴が生えやすくなる。


投げる:
投げる

 ここでまさかの工程、投げる。丸めて球状にしたら、壺の内壁にベタっとはりつくくらい、思い切り投げつける。これもしっかりと空気を抜くための工程だが、気持ちいいので我を忘れてバシバシ投げる。この爽快感は、子どもも喜びそうだ。


均す:
均す

 全て投げ終わったら(すごい表現だ)、また空気を抜きつつ平らに均して、最後に雑菌が繁殖しないように塩を振る。最後の最後に清めの塩を手向ける、というのが素敵だ。


寝かす:
寝かす

 空気が入らないように入念にラップして、静かな場所に壺を納めた。

 味噌が色づき食べ頃を迎えるのは、春、夏、秋、と季節を重ねた次の冬。良い発酵をさせるためには、夏の暑さや湿度を経験することが必要なのだが、まだ気温の低い時期に仕込んでおくことで、ゆっくりと発酵が進むためおいしく仕上がるのだという。四季のある日本ならではの発酵方法なのだろう。今年は味噌の発酵具合を気にかけつつ、楽しみながら季節を送ることができそうだ。季節の移ろいの楽しみ方を、また1つ教えてくれた友達に深謝。

 海べりの風土に馴染みながら、じっくりと発酵されて出来上がる「手前味噌」が、今から楽しみで仕方ない。
 
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