えんじゅ

画家たちへの旅



今一番よく行く美術館は,ポーラ美術館だ.ポーラ美術館は,近代的な佇まいとは対照的に,箱根の山深くに埋もれるように,ひっそりと建っている.山に囲まれた風景も立体的な建築も,館内への光のとり方も大好きな美術館だ.
そのポーラ美術館で,「モネと画家たちの旅―フランス風景画紀行」展が開催されているので,今日ちょっと箱根まで足を伸ばしてみた.

モネの人生の足跡を辿るような展覧会かと思っていたら,それほどモネばかりを取上げるのではなくて,19世紀後半から20世紀にかけて活躍した,印象派を中心とする画家たちの旅を追いかける,という企画だった.

「旅」をキーワードに,4部構成をとっていた.

  • 1 パリ近郊―風景画の揺籠

  • 2 パリを離れて―自然との対話

  • 3 南へ―光,色彩,エキゾティシズム

  • 4 想像の旅


1 パリ近郊―風景画の揺籠


フランスで近代風景画が成立した19世紀後半.主にパリ近郊の風景を描いた絵が集められていた.
パンフレットにもなっているモネの「セーヌ河の日没,冬」は,もう何度か目にしているけれど,やはり風景の中に入っていきたくなるような美しさと,もの哀しさがあった.
モネの絵では,「花咲く堤,アルジャントゥイユ」も良かった.遠景のセーヌ河と工場の柔らかいタッチと,近景の岸辺の花の厳しいタッチが,違和感があるほど対照的で,それが自然の力強さとアンチ・テーゼを印象付けているような気がした.
シスレーの「ロワン河畔,朝」も,パステルカラーの柔らかい色合いで,なんだか優しい気分にさせてくれた.

2 パリを離れて―自然との対話


鉄道や自動車の普及は,画家たちに新しいモチーフの風景を描くきっかけを与えてくれた.パリから離れて,ブルターニュやノルマンディーへ活躍の場が拡がった頃の作品.
僕の好きなスーラ「グランカンの干潮」や,モネ「国会議事堂,バラ色のシンフォニー」は何度もその絵の前に立ちたくなるくらい,美しかった.「ルーアン大聖堂」は肌色に近いバラ色のタッチのものがあった.ただこのシリーズは1枚しかなくて,やはり,連作を並べて見る方が光の当て方や色彩の対比ができて面白いのにな,と思った.
このコーナーでは,ルドンの「ブルターニュの海」が圧倒的だった.美術館の光の当て方の影響もあるのだろうが,重く垂れ込めた色合いで立体的に塗り重ねられた筆の跡が,光を反射してキラキラと輝いていた.ものすごく「欲しい」と思ってしまった.
しばらく絵の前を離れることができないくらい,圧倒されて唸ってしまった.

3 南へ―光,色彩,エキゾティシズム


さらにコートダジュールから北アフリカへと南下していった頃の作品.
明るい太陽に刺激されたのか,鮮明な色彩と力強い筆遣いの作品が増えてくる.ブラックやボナール,エルバン・・・そしてゴーガン.
ボナールの「ミモザのある階段」は,白色の重ね方が印象的だった.僕のような素人の発想では,絵を描くときに白色を重ねる,という発想があまりない.この絵の中の白は,緑や赤を際立たせる補色的な役割ではなく,間違いなく堂々と主役を主張していた.それがとても新鮮だった.

4 想像の旅


最後の「旅」は,これまでと全く趣向の違うものだった.ここまでの構成の流れを止めてしまうような,唐突な想像の世界.
ルドンの寓意的な作品群を中心に,ゴーガンやルソーの作品があり,それ自体は素敵なものがあった.でも,「風景画紀行」と銘打たれた展覧会のシメとしては,このコーナーはとても物足りないように思われた.残念...



風景画の黎明期から画家たちの旅の変遷を追いかける,この企画の発想は面白かった.一つひとつの作品のキャプションには,その作品が描かれた場所の地図も付記されていて,わかりやすかった.

それだけに,画家たちはその後どこまで旅を続けたんだろうか・・・と想像させてくれる,そんな終わり方をして欲しかった気がした・・・.
今回の展覧会を見た人が,個人的に気に入った画家の人生を追いかけることで,その旅の続きを確かめるという,その先のストーリーがあったかもしれないから・・・.


ポーラ美術館
モネと画家たちの旅―フランス風景画紀行
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