えんじゅ

サヨナラの爪楊枝

サヨナラの爪楊枝

 小さな頃、兄貴と一緒に阪神タイガースの試合をテレビで観戦するのがなによりの楽しみだった。大阪にはサンテレビというテレビ局があって、甲子園で阪神の試合があるときには必ず試合終了まで生中継していた。
 試合の解説者は日によって違ったのだけど、僕が特に好きだったのは福本豊さんだった。僕らは尊敬と親しみを込めて「ふくもっさん」と呼んでいた。現役時代、通算1065盗塁(当時の世界記録)という偉業を成し遂げた「世界の盗塁王」ふくもっさんは、解説者としても数々の伝説を残している。

 「盗塁の秘訣は何ですか?」と実況に尋ねられたふくもっさんはひと言。

 「まず塁に出ることやな」

 「福本さん、今のプレーどうですか?」と実況に尋ねられたふくもっさんはひと言。
 
 「あっ、ごめん、見てへんかった」

 「赤星は最初からおっつけてるように見えましたね〜」と実況に同意を求められたふくもっさんはひと言。

 「・・・ん?オレに聞いとるん?」

 お茶の間で一緒にテレビを見ているおじさんのような、ふくもっさんの解説。野球解説者の常識を覆す数々の伝説の中でも僕が一番好きなのは、「たこ焼き伝説」だ。

 得点が入らず0続きのスコアボードを見て、ふくもっさんはひと言。

 「たこ焼きみたいやな」

 そしてその後久々に1点が入ったとき、

 「たこ焼きに爪楊枝が付いたな」

 それ以来、投手戦で0続きのスコアボードは「たこ焼き」と呼ばれるようになったという。

 僕は大阪の実家に帰ったら、必ずたこ焼きを食べる。そのときいつも、まず右端下のたこ焼きから食べる。そしてその場所にすっと爪楊枝を添えて手を合わせ、今日も阪神のサヨナラ勝ちを祈るのだ。
 
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