えんじゅ

メイズの来た道

収穫したローカル・メイズ

 僕の畑のメイズ(トウモロコシ)が、今年も無事に収穫の時期を迎えた。
 僕は1年に2回、メイズの種を蒔いている。飼っている鶏の飼料にするメイズを、できるだけ1年を通して確保したいからだ。
 種は買ってくるのではなくて、毎回収穫時に種を乾燥させて保存しておいて、時期が来るとまた畑に蒔いている。種をとり続けることができるのは、品種改良されたF1種(一代雑種、一代限りしかうまく育たない品種)のホワイト・メイズではなくて、この地域に古くから伝わる在来種、ローカル・メイズだからだ。

 このローカル・メイズ、ちょっとおもしろい。一房一房、皮を剥がすまで実が何色なのかがわからないのだ。
 本来、メイズにはいろんな品種がある。ホワイト・メイズだけでなく、イエロー・メイズ、レッド・メイズ、パープル・メイズなど。まるでキャンディーみたいだ。それらが自然に交配して、1つの房に白、黄、赤、紫の実が入り交じることもある。これはスポット・メイズと呼ばれている。
 こんなふうに品種が多様なのが、ローカル・メイズの特徴だ。
 
フレッシュ・メイズ

 まだ湿気を含んでいるやわらかいメイズは、乾燥したものと区別するためにフレッシュ・メイズと呼ばれている。フレッシュ・メイズは茹でたり焼いたりしてそのまま食べる。僕は炭火で炙って食べるのが香ばしくて好きだ。
 メイズの風味は収穫後数時間で落ちるといわれている。たしかにもぎたてのフレッシュ・メイズはみずみずしくて本当にうまい。自分でメイズを育てる醍醐味は、なんといっても収穫してすぐに食べられることだ。

乾燥させたメイズ

 一方、乾燥させたメイズは、とった実を挽いて粉にする。パウダー状にこまかく挽いたものを人が食べるウブワリ(シマ)の原料にして、粒がある程度残るように荒く挽いたものを鶏に与えている。
 だけど収穫の一部は実をそのままとっておいて、種としてまた畑に蒔く。
 完全に乾燥したメイズの粒はかなり堅いので、実を軸から外すのもちょっと骨が折れるのだけど、そんなときは近所の悪ガキ少年たちを集めて手伝ってもらう。小さな手がよく働いてくれる。働いた後には炭火であぶったフレッシュ・メイズのおやつが待っている。

近所の子どもたち

 ザンビアの主食は、このメイズだ。トウモロコシといっても、日本で一般的なスイート・コーンとは違って、甘みが少ない品種。主食にするには、甘みが少ない方がいいのだろう。その方がどんな副菜にも合うからだ。このメイズはスイート・コーンに比べると堅くて味わいも薄いけれど、よく噛めば噛むほど穀物本来の旨味が出てくる。
 もともとアフリカ大陸にメイズはなかった。アメリカ大陸原産のメイズは、大航海時代にヨーロッパを経由して、落花生などと共にアフリカに渡ってきたという。それまではアフリカ原産で乾燥に強いソルガム(モロコシ)が主流だったが、収量の多さからメイズがソルガムにとって変わった(今でもソルガムを主食とする地域もある)。

 ザンビアでは11月〜12月、雨季のはじめにメイズの種を蒔く。そして雨季の間に大きく成長したメイズは、乾季が始まってしばらく経った5月頃に収穫の季節を迎える。
 今ザンビアで育てられているメイズは、ほとんどが白いホワイト・メイズだ。種は毎年種子メーカーから、化学肥料とあわせて購入する。できるだけたくさんの房がなるように品種改良されたメイズは、たしかによく実る。
 その一方で、代々種をとり続けてきた在来種がある。それが僕が育てているローカル・メイズだ。だけどローカル・メイズは、日常的にはもうほとんど見かけることはない。
 ザンビアに来て間もない頃、僕はメイズの在来種を探して農家を訪ねて歩いた。だけどなかなか見つからなかった。ローカル・メイズは、品種改良されたホワイト・メイズに比べるとかなり収量が落ちるため、近所の農家もみんなホワイト・メイズばかりを植えているからだ。
 ところが、意外なところでローカル・メイズの種を分けてもらうことができた。うちの学校の家政科の先生が、ローカル・メイズの種をとり続けていたのだ。その先生から種をもらってきて、自分の畑に蒔いた。化学肥料も使わず、飼っている地鶏の糞だけで育ててきた。これが本来のザンビア伝統のメイズなのだ。
 このメイズを収穫して、挽いたものを鶏の餌にする。メイズを食べた鶏は糞をして、それが肥料になってまたメイズを育てる。小さいながらも、そのサイクルを守ってきた。

ローカル・メイズの種

 ザンビアの子どもたちのなかには、このローカル・メイズを見たことがない子もおそらく多いと思う。特に都市部に住んでいる子どもたちは、メイズは白いもの、と思っているかもしれない。それだけ、一般的に市場に出回るのはホワイト・メイズだけになっているからだ。
 改良種が在来種にとって変わっていく時代の流れは、ザンビアだけではなくて、日本でも、世界のどこの国でも同じなのだろう。

 メイズの収量に生活がかかっている農家はたくさんいる。一度収量の多い改良種を植えると、在来種に戻るのはとても難しいだろう。
 メイズの来た道。この昔ながらの道は、もう引き返すことのない道なのかもしれないと思うと、胸に穴が開いたように寂しい。
 
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