えんじゅ

巣立ち

角帽

 卒業式が終わりにさしかかったころ、卒業生が角帽を宙に放り投げる瞬間が好きだ。
 きっと窮屈さもあっただろう学び舎を卒業する開放感と、古巣を離れて茫洋とした社会に羽ばたいていく心許なさが、宙を舞う帽子に重なる。
 去年も同じ瞬間を写真に撮ったけれど(「卒業後」)、今年はより広角のレンズに取り替えて、帽子が一番高く舞う瞬間にシャッターを押した。少しでもたくさんの帽子を写そうと思った。
 
ムワンバ

 今年もグレード12(高校3年生)の生徒たちが卒業式を迎えた。2年間毎日のように顔を合わせた教え子たちが巣立っていく姿を見るのは、とても誇らしくもあり、寂しくもあった。
 毎年卒業式では、学業で特に優れた成績を残した卒業生を表彰する習わしがある。今年の卒業式ではその学業の表彰に加えて、例年にはない特別表彰があった。

 ムワンバは5年前に入学したとき、泳ぎ方を知らなかった。そもそも泳いだことがなかった。うちの学校では、先生が泳ぎ方を教えるのではなくて、先輩が後輩に泳ぎ方を教えている。ムワンバも先輩から泳ぎ方を教えてもらった。泳ぐことを好きになった彼女は練習を重ねて、昨年グレード11のときには水泳の選手になった。そしてそれだけでなく、最終学年の今年、彼女は水泳の途中に溺れかけた生徒を助けるライフセイバーとして、何度もプールに飛び込んだ。
 校長のシスターは水泳に真剣に取り組んだ彼女の努力に敬意を表して、'Swimming Achiever'として彼女を特別に表彰した。ムワンバの名前を呼ぶシスターの顔は、とても誇らしそうだった。

チャンダ

 チャンダは音楽が好きだ。昨年の60周年記念式典では、生徒を代表して歌を作曲した。「Twafikako nani waishebe eih(私たちはたどり着いた。ここまで来れるなんて、誰が思っていただろう)」と始まる、彼女が作曲した'Long Road'は僕も大好きな歌だ。
 彼女は敬虔なカソリック教徒でもあった。全校生徒の前で何度も祈りを務めた。彼女の祈りの言葉はいつも深い信仰と豊かな表現力に満ちていて、その感動的な祈りの後には自然と拍手が起きた。
 大勢の前で堂々と歌い、立派な祈りを唱えるわりには、素の彼女は恥ずかしがり屋だった。
 シスターは'Spiritual Animator'として彼女を表彰した。チャンダはいつも彼女がそうするように照れくさそうな顔をして、記念の盾を受け取った。

 教育者として大切なことは、「見逃さない」ということなのかなと思う。生徒の個性を見逃さず、生徒自身が個性を伸ばし、それを通じて学校(社会)に貢献できる場を用意すること。そのために生徒が払った努力には賛辞を惜しまないこと。
 教師にとっても、自分の教え子が伸び伸びと自分を表現すること、それを目の当たりにすることに勝る喜びはないんじゃないかと思う。

 宙を舞った帽子は、またひらひらと戻ってくる。またいつか古巣に戻ってきてほしいなと思う。卒業おめでとう。
 
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