えんじゅ

ザンビアの正装

チテンゲのシャツ

 昔からスーツとネクタイが苦手だ。窮屈でしかたない。正装となると、どうして男性だけがネクタイをしめることになっているのだろう。ずっと不満に思っているのだけど、誰に文句を言っていいのかよくわからないので、嫌だなぁと思いながら郷に従っている。
 ザンビア人は正装に対する意識がとても高いと思う。男性はきちんとスーツを着て、シャツにはしっかりアイロンをあて、しょっちゅう革靴を磨いている。スーツにキンピカのラメが入っていたり、ちょっとネクタイが短過ぎたり、と日本人から見るとヘンなところもあるけれど。女性もお洒落が大好きで、日曜日にはチテンゲで仕立てたドレスを着て教会に行く。
 僕も学校教員をしている手前、襟付きのシャツと革靴は必須だ。ほとんどの先生は毎日きちんとネクタイをしめている。ザンビアの生活で唯一窮屈なのは、毎日アイロンをかけたシャツを着て、靴を磨かないといけないことだ。ちょっとアイロンがけをサボると、「シャツに皺が入ってるよ」と同僚から指摘され、ちょっと靴磨きをサボると、埃のついた靴に生徒の視線が集まっているのがわかる。教壇に立つ者として、それはプロフェッショナルじゃない。
 
 ところが、ザンビアにはスーツ以外にも、伝統的な正装がある。ザンビアの布チテンゲのシャツだ。ハワイではアロハシャツ、インドネシアではバティックシャツが正装であるようなものだろう。刺繍などで飾り付けしてあるチテンゲシャツは、女性のチテンゲドレスと同じように、学校ではもちろん、結婚式でも正装として受け入れてもらえる。ザンビアではチテンゲは静謐さと謙虚さの象徴なのだ。
 そしてこのチテンゲシャツが素敵なのは、なんといってもネクタイをしめなくてもいい、というところだ。しかも襟の付いていない、胸に切り込みが入っているアフリカスタイルのシャツでもいい。さらにこのチテンゲの柄であれば、アイロンをあてていなくても皺が目立たないのだ。
 これはすばらしいと思って、さっそくチテンゲシャツを仕立ててもらった。ザンビアでは、自分の気に入った色と柄のチテンゲを仕立て屋に持ち込んでオーダーメイドするというのはとても一般的だ。自分で仕立ててしまう人もたくさんいる。
 村の仕立て屋では刺繍ができないので、街の仕立て屋を同僚に紹介してもらった。みんなそれぞれ贔屓の仕立て屋を持っていて、仕立て屋は顧客の好みを把握している。なんだか美容院のようだ。

刺繍

 せっかくなので、友人への餞別代わりに分け合った、僕にとっては特別なチテンゲ(「半分の糸」)を持っていった。
 注文したことはただ1つ。
 
 「ネクタイなしでも結婚式で着られるような、ザンビアの正装シャツ!」 

 襟付きのものと襟なしのアフリカン・シャツの2着を仕立ててもらった。首が窮屈でないのがなにより嬉しい。
 できあがりを見ると驚いた。襟元、胸ポケット、袖口にとても丁寧な刺繍が施されている。刺繍の糸の色もチテンゲの色に合わせて似合うものを選んでくれた。これはアフリカの伝統的な刺繍の方法らしい。かなり重厚な刺繍なので、切り口から布の糸がほつれてくるということもない。装飾と実用を兼ね備えている。

 「これであなたも本格的なザンビアンね」

 と、仕立て屋のおばさんが言ってくれた。
 このシャツのおかげで、ネクタイ・フリー、アイロン・フリーの軽快な生活ができるようになった。
 おまけに嬉しいことに、学校でこのシャツを着ていると、生徒がみんな喜んでくれるのだ。東洋人がチテンゲのシャツを着ているのがおもしろいのだろう。
 村を歩いていると、まったく知らない人も「いいシャツだね」と声をかけてくれたりする。服装で親近感をやりとりできることは、とても嬉しい。

 ちょっと気にかかるのは、日本に帰ったら、このチテンゲシャツをいつどこで着ればいいのだろう、ということだけど。正装どころか、「リゾートホテルのプールサイドでリラックスしているオジサンのシャツ」と認知されてしまいそうだ。今のところリゾートホテルに宿泊する予定はないので、アフリカ関係者の結婚式くらいしか出番がない気がする・・・。
 
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