えんじゅ

かりそめの居場所

ラマディさん

 旅行者はいつだってよそ者だ。知らない町をちょっとだけ歩いて、そして帰っていく。
 そんなよそ者でも、その町に溶け込んだ気分になれるのは、ここが自分の馴染みの居場所、と思えるような一角を町の中に見つけられたときだと思う。懐の深い町は、よそ者にかりそめの居場所を与えてくれる。僕の場合、そんな場所はたいてい町の食堂だ。

 旅をしている間に食べられる料理は限られている。だからときには足が棒になるまで、居心地の良さそうな食堂を探して歩く。そんな食堂を見つけるには、自分の鼻に頼るしかない。鼻に神経を集中させて気に入った食堂を見つけると、そこばかりに通う。それは日本でも海外でも変わらない。
 幸せなことに、ストーン・タウンでもそんな食堂を見つけることができた。
 
ウロディオ

 ラマディさんの食堂は、ストーン・タウンのダラジャーニ市場の片隅にある。食堂というより屋台といった方がいいような簡素な店だ。
 料理の数は多くない。港から揚がる魚も、ピラウもない。僕がいつも食べたのは、ウロディオと呼ばれるザンジバル流ごった混ぜスープ。牛肉や鶏肉の串焼き、ゆで卵、揚げたジャガイモ、生野菜に、香辛料をきかせたスープを注ぐ。これが2,000シリング(約120円)。食後にはすぐそばの市場で買ってきたマンゴーとランブータンを食べた。
 お客さんがひっきりなしに入ってくる。だからラマディさんはいつも手を動かしている。肉を焼き、卵をゆで、ジャガイモを揚げ、野菜を切って、スープを注ぐ。いったい一日に何度それを繰り返しているのだろう。その姿を見ながらウロディオをすするのが好きだった。
 毎日通いたくなる食堂には、顔を見るだけでホッとするようなご主人や女将さんがいる。ラマディさんは僕が食堂に顔を出すと、「おう、帰ってきたか。今日はどこに行ってきたんだ?」といつも声をかけてくれた。僕はその日にあった出来事を話した。毎日何か新しい風景に出会ってちょっと浮わついた気分を、着地させられる場所だった。

 ザンジバルでの最後の夜、「明日発ちます」と挨拶をすると、ラマディさんはいつものウロディオをごちそうしてくれた。「勘定はいい。いつザンジバルに帰ってくるんだ?またここに帰ってこい」と言ってくれた。
 ものを食べる場所では、人は一番穏やかになれる気がする。
 
食文化が出会うとき  |  記事の一覧に戻る  |  あるムスリムの家族