えんじゅ

椅子と太鼓 1. ソマリ人と山羊

教会の太鼓

 何かを手作りするのが好きだ。
 日本にいた頃には、鉄を打って出刃包丁を作ったり(『鉄を鍛える』)、自宅の庭に縁側を作ったりした(『縁を育む』)。
 アフリカに来てからも、自分で何かを作ってみたいと思っていた。できれば地元で手に入る素材を使って、昔からアフリカの生活に根付いているものを作りたかった。

 ザンビアで暮らし始めてから僕が気に入ったものは、革張りの椅子と太鼓だった。炭火で料理をするときに座る小さな椅子。ミサや礼拝でのゴスペルとダンスの際に叩く太鼓。どちらもザンビアの生活に必要なものだ。
 村の人たちは必要なものを自分たちで作ってしまう。椅子も太鼓も、森に入って木を切り、絞めた動物の皮をなめして作っている。自然の素材から手作りする彼らの力は、包丁を作ろうと思えば鉄を、縁側を作ろうと思えば角材を買ってくる僕など足元にも及ばない。それが悔しくもあり、羨ましくもあった。
 それで自分が気に入った椅子と太鼓を、自分の手で作ってみようと思った。
 
 両方に共通して必要なもの、それは動物の皮だ。椅子の腰かけるところ、太鼓の叩くところに張る皮。村の職人に聞いてみると、椅子や太鼓を作るには、牛の皮が最も頑丈で耐久性に優れているということだった。だけど牛の皮は簡単に手に入るものじゃない。
 他の動物の皮はどうかなと聞くと、山羊の皮であれば、ンドラの町外れにあるンデケ地区というところで売られていると教えてくれた。
 そうして何度かンデケ地区に通うようになった。

ソマリ人の青年

 ンデケ地区というのは、ソマリアからザンビアに商売をしにきたソマリ人が数多く住むところで、先日暴動が起きた地区でもある(『ParsonalityとNationality』)。ソマリ人が雇っていたザンビア人従業員を射殺したことが引き金になって、ザンビア人によるソマリ人居住区襲撃事件が起きた。何棟もの商店が壊され、人家が焼かれた。
 今でも治安に不安が残る場所なので、はじめて行くときには念のためにザンビア人の友人に付き添ってもらったけれど、何度か行っているうちに次第に顔見知りもできた。
 しょっちゅう顔を合わせる3人。左から、ソマリ人とケニア人のハーフ、生粋のソマリ人、ソマリ人とイギリス人のハーフ。どこかにアラブの血が入っている彼らの顔立ちは、ブラック・アフリカのザンビア人のそれとはずいぶん違う。みんな気さくな連中で、いつも挨拶は「マンボ?」(スワヒリ語で「調子どう?」)ではじまる。
 彼らの多くはトラックのドライバーで、ケニアやタンザニアからザンビアへ香辛料やチテンゲなどを運んでくる商売をしている。ンドラのマサラ・マーケットで売られている輸入品は、彼らが運んできているのだ。

山羊肉のソーセージ

 ソマリ人のほとんどはイスラム教徒だ。彼らは豚肉を食べないかわりに山羊肉を好んで食べる。山羊の頭は客人をもてなす際にふるまわれる。山羊は乾燥に強く、砂漠地帯でも育てられるということも、イスラム教徒が山羊肉を好む理由の1つなのかもしれない。
 ンデケ地区で山羊の皮が容易に手に入るのは、ソマリ人が肉を食べるために山羊を絞めているからだ。

 この界隈には料理店がいくつか並んでいて、ソマリア料理を食べられる。
 なかでも僕が一番好きなのは山羊肉ソーセージだ。細かく砕いた山羊肉とタマネギ、ピーマンなどの野菜を腸に詰め、香辛料を振って炭火でじっくり火を通す。注文するとひと口サイズに切り分けてくれる。これが1クワチャ(約19円)だ。
 このシンプルなソーセージがとてもうまい。薫香でうまい具合に生臭さが消されていて香ばしい。なにより山羊肉のガシガシした食感と、噛めば噛むほどにじみ出てくる肉の旨みがたまらない。
 ホクホクの山羊肉のソーセージをつまんでいると、ついついキンキンのビールに手を伸ばしたくなるけれど、気持ちよく酔っぱらえるほど治安が良い場所ではない。いつか大勢で行くことがあれば、ホクホクとキンキンの黄金タッグを試してみたい。

草地を走り回る山羊

 そんな料理店が並ぶ先に、だだっ広い草地がある。山羊たちはでそこで草を食べたり走り回ったり交尾をしたりしている。
 山羊肉料理店などから注文が入ると、この山羊たちの中から1頭が選ばれて屠殺される。個人的に山羊を1頭丸ごと買っていく人もいて、大きさにもよるけれどだいたい180クワチャ(約3,400円)くらいだ。冷凍庫で肉を保存できる人にとっては、市場で切り売りの牛肉や豚肉を買うよりもずっと安い。
 僕はそんなふうにして絞められる山羊の毛皮を買いにきた。
 1日に絞められる山羊は7〜8頭。ソマリ人やザンビア人と山羊の話をしながら、注文が入るのを待った。

(つづく)
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