えんじゅ

ナンシー

ナンシー

 ナンシーは、僕が仲良くさせてもらっている友達の姉の娘だ。だからその友達からみると姪にあたる。
 ナンシーのご両親は彼女が幼い頃に亡くなった。交通事故と病気だったそうだ。だからナンシーは彼女からみて叔父夫婦と一緒に住んでいる。

 平均寿命の短さは世界最低レベルのザンビア。出生時、幼少時の死亡率が高いことが大きな要因だけれど、サハラ砂漠以南のアフリカ(いわゆるブラック・アフリカ)で猛威を振るうエイズやマラリアで命を落とす大人も多い。だから親戚に養われている、ナンシーのような孤児がたくさんいる。
 ザンビアの一般的な家族形態は、今の日本のように親子だけからなる核家族(nuclear family)ではなくて、血縁者とともに住まう拡大家族(extended family)だ。祖父や祖母だけではなくて、甥や姪、いとこやはとこと一緒に住んでいるのも珍しくない。家族、血族を本当に大切にして、助け合う文化が色濃く残っている。もしかするとその背景には、血縁者同士が助け合わなければ生きていけない社会的な事情があるのかもしれない。
 
 僕がザンビアにやってきたばかりの頃、ナンシーは人見知りをしてとてもおとなしかった。学校に行くとき毎日のように顔を合わせるので、僕はいつも「ウリシャーニー?(調子どう?)」と声をかけるのだけど、目も合わせずに「ブウィノ(元気)・・・」とつぶやくだけだった。
 友達付き合いにもあまり積極的でなくて、いつもうつむき加減な感じだった。このくらいの年頃の女の子は髪型に気を遣って伸ばしたり編み込みをしたりするのだけど、ナンシーはあまり興味がないのか、今でもずっと坊主頭のままだ。
 幼い頃に両親を亡くしたことが彼女の心にどんなふうに影を落としているのか、僕には想像することもできない。

 だけどこの前、友達の結婚式があって、ナンシーははじめてドレスを着た。式の後のパーティーで音楽に合わせて楽しそうに踊っているナンシーを見て、僕は嬉しかった。本当にいい顔をしているので、カメラを向けてみた。
 「ナンシー!ンクコペ!(写真撮るよ!)」と言うと、彼女はちょっと照れながらウィンクを返してくれた。こういう瞬間はずっと忘れないだろうな、と思った。
 
おかしな木登り  |  記事の一覧に戻る  |  新鮮な卵